[architect]「OFFGRID HOUSE」プロジェクト始動
[architect]「OFFGRID HOUSE」プロジェクト始動
人の新しい”生きる”を創り出す『OFFGRID HOUSE』 プロジェクト始動
2001年9月11日に起きた、アメリカ同時多発テロ。
2011年3月11日の東日本大震災。
そして2020年の3月11日には、新型コロナウイルスの発生に端を発したWHOによるパンデミック宣言。
世界を震撼させた数々の衝撃的な出来事を前に、備えがなければすぐに崩れ落ちてしまう日常に対して危機感を抱き、また同時に建築家としての無力感も覚えました。
そして、未曾有の災害はきっとまた近いうちに起こるという恐怖感に包まれています。
このような状況下、「自分が建築家として人々のより良い暮らしのためにできることはないのか」
と改めて考えました。
「今後どのような災害や経済危機が起きようとも、未来への希望を失うことなく生きるにはどうしたらよいのか」
「ただ暮らすためだけの場所ではない、「希望」を併せ持つ家を建築家として作ることはできないのだろうか」
「人間が魂から喜べるような、自然と調和する方法はないのだろうか」
そんな想いから、この『OFF GRID HOUSE』プロジェクトは始まりました。
かたちは無駄を削ぎ落としたシンプルな構造とし、その代わり最先端のテクノロジーを駆使することで、今までにない全く新しい次世代の暮らしを実現する空間。
そして、自然と調和し、人間としての本質的な暮らしを送れる。
「人が作ったパイプラインに依存せず、まるでカバンのように自由に移動できる家」
その構想に辿り着きました。
一人ひとり異なる本質的な「生きる」をオーダーメイドでカスタムデザインした、
『OFFGRID HOUSE』。
それがもたらす暮らしのかたちを紹介します。
街と自然と共存して生きる「インフラフリーの家」
OFFGRID(オフグリッド)とは、人間に供給される電気やガス、水道などのインフラに依存せず、自然からの恵みを受け、自給自足ができる状態のことを表します。
『OFFGRID HOUSE』はキャンピングカーのように数日の間短期的に暮らす場所とは異なり、中長期的に暮らせる「快適な家」として、「熱・水・光」のインフラ設備を兼ね揃えています。
オフグリッドシステムを導入することは、万が一、自然災害が発生した際でも、従来の暮らしを可能にします。
電気は、電力会社からの電力に依存することなく、ソーラーパネルとPHEV(電気発電自動車)のシステムを採用することで、たとえ一週間以上太陽光を得ることができなくても電気が枯渇しない仕組みを作りました。
生活用水は井戸水や、屋根とタープに溜まった雨水と夜露をタンクに貯めて活用します。
生活排水は、微生物が分解する仕組みを導入することで、設置する周辺状況にも影響を受けることなく、環境にに応じた数種類の方法を選択できるシステムを計画しています。
また自然災害の発生時には、この家は避難場所としてマイクロシェルターやセーフハウスにもなる堅牢性とサバイバル性を兼ね揃えています。
安全に暮らせる機能を持つと同時に自然環境へも配慮しています。
ミニマルに設計された家は、必要な敷地開発面積や伐採する木を最小限に抑えることで、環境への負荷も少なくしています。
環境保全に努めながら、自然と融合したインフラフリーの暮らしが手に入るのです。
空気や温熱環境にも配慮した「人の健康を促す家」
住まいが心身に及ぼす影響は大きいと考えています。例えばシックハウスはその象徴でしょう。
仕上げ材だけでなく下地材にも配慮し、自然素材を採用しています。
一般的に、コンテナ構造の建物は外気温の影響を受けやすいのですが、外部には遮熱性能のある塗装を行い、屋根や外壁・床にはウレタン吹付断熱を施し、開口部のガラスには断熱性のある真空ガラスを採用しました。
これらを採用することで、一般的なトリプルガラスの半分以下の厚みと重さで同等以上の熱還流率を実現しています。
更に、ガラスに断熱性の高いLow-Eコーティングを採用することで、夏の日差し対策にも徹底しています。
また、環境に優しく、高い断熱性を持つ木製サッシや、熱交換型の換気システムを導入することで、快適な室温を保つことができます。
外気の取り入れ部には、花粉やPM2.5を遮断する換気フィルターを採用することで、住む人の健康に配慮した空気のデザインをしました。
洗練されたシンプルな心地よさと、機能性を併せ持つ「ミニマルの移動可能な家」
OFFGRID HOUSEは「カバンのように移動できる家」として、そこに住む人の状況に応じて、「建築物」にも、「車両」にもなります。
特注で製作された車台(シャーシ)に乗せられたコンテナは、車でレッカーできる場所であれば全国のどこへでも移動することができる車両になります。船や飛行機で輸送すれば他国へ運ぶこともでき、ヘリコプターなどで運搬すれば家を建てることが困難な秘境の地であっても設置することが可能です。
「熱・水・光」を自給できるシステムによって、暮らす場所を固定しない新しい生き方を実現できるのです。
クリエイティブワークに集中できる「アトリエのような家」
日々、生活を送るためには「働く」ことが必要です。1日の大半を労働時間に費やしている現代の人々にとって、働く場所への配慮も必要だと思います。
室内の照度と色温度は人の精神状態に影響を与えると言われています。
室内照明は、光量を細かく調整できる照明を採用し、デザイナーや動画制作者といったクリエイターによる精緻な色味の調整作業にも対応することができます。
又、光の反射が少ないグレアレス照明を採用することで、反射によってPCモニターや窓の外の景色が見えづらくならないように配慮しました。
更に、電気機器から発生する電磁波を電磁波防止シートでカットすることで、人体へ与える悪影響にも対応しています。
「心身を整える」ノイズレスな空間
コンテナの内部は、機能性と快適性を兼ね揃えた、限られたスペースを効果的に使うことができる「無機質な和室」をイメージした空間としました。
デスクとベッドは折りたたんで収納することができるので、仕事部屋や寝室の用途以外にも、ダイニングやリビングスペース、トレーニングやヨガに瞑想、ストレッチなど、自由自在に利用することが可能です。
又、収納スペースは利用する人によってカスタマイズできるシステムにしました。
床や壁には桧の無節の無垢材を使った内装とすることで、天然木の香りに包まれる空間にしました。
その空間に身を置くだけで、心身が安らぎ、睡眠の質の向上に寄与し、自然と融合するような空間となっています。
日本では古来から、空間は尺の単位で構成され、それが理論的に理解されなくとも、「何となく心地よく感じられる」力があると考えられています。
又、日本の美には、洗練された引き算のデザインが細部にまで宿っています。
それらの要素を取り入れ、無垢の木の幅を150mmを基準とし、床をはじめ扉や通路の幅も同じ規則に沿って空間を構成しています。
一枚板を使用したり、繋ぎ目は留め加工と呼ばれる、二つの部材を斜め45°にカットして繋ぎ合わせたりすることで、より美しく、ノイズレスな空間を生み出しました。
神社仏閣や茶室とは少し異なる、凛とした空間を体感できるでしょう。
人々の「生きる」をオーダーメイドでカスタマイズする
これらの快適さを実現する家『OFFGRID HOUSE』が、長年の研究成果と試行錯誤を経て、ついに実現しました。
暮らす人のご要望や設置場所に応じたオプション式のオーダーメイドで丁寧に作り上げ、人の住まいと未来の暮らしをアップデートする新たな選択肢となります。
OFFGRID HOUSEでの生活は、現代社会を生きる人々が忘れている「大切な人々とのつながり」を取り戻すことができます。
都会での生活のみでは人と人の繋がりが希薄に、反対に地方での生活のみでは”繋がり過ぎる”ことに窮屈さを感じることもあるでしょう。
移動式の家という特徴を最大限に活かし、都会と自然を行き来することで、どちらの豊かさも享受できるようになります。
この『OFFGRID HOUSE』で、人間としてアップデートされた新しい暮らしを手に入れていただきたい、というのが私の想いです。
新しい「生きる」を創っていきましょう。
ご連絡をお待ちしております。
〈概要〉
プロジェクトプロデュース|NEXTRAVELER
企画|LAF. (arbol 堤 庸策 × and 小野 義直 × youbi 熊谷 雅樹 × 設計事務所はすいけ 蓮池 亜紀)
企画・設計期間|2020.04~2022.07
工事期間|2022.08~11
基本設計・現場監理|arbol 堤 庸策
実施設計| arbol 堤 庸策 × 設計事務所はすいけ × youbi 熊谷 雅樹
施工・外構|youbi 熊谷 雅樹
照明|Modulex
家具コーディネート|LAF.
撮影| 矢野紀行写真事務所 Toshiyuki Yano Photography
種別|トレーラーハウス
面積|11.99㎡(内法寸法による)
所在地|山梨県北杜市
用途地域|なし(都市計画区域外)
構造|輸送用コンテナ
仕上|
屋根・外壁:コンテナ本体に遮熱塗装
内部 床:桧無垢フローリング t15
壁:桧無垢羽目板 t12
天井:壁と同じ